【第五回コラム】町の歴史を語りかけてくる水辺の景色

プラハの船

 

これまで旅した中で、その土地に流れる川を行く船に乗って町並みを見たときの思い出には格別なものがある。しっとりとした水辺の風景からその町のものがたりを思い描くことができるのだ。

数年前にチェコのプラハを訪れたが、四半世紀前に訪れたときと比べると観光客で溢れ、賑わいぶりに驚いた。喧騒を離れて、市内を流れるヴルタヴァ川(ドイツ語;モルダウ川)で船に乗ることにした。ヨーロッパに現存する最古の石橋とされるカレル橋のすぐ上流には落差数十センチの低い堰が川を斜めに横切っており、そこを通りかかる時は、閉じている水門の前で船が停止した。ワクワクしながら少しずつ水面が同じ高さになっていくのを待った。パナマ運河と同じシステムという説明があった。水門が開いた時には、乗客から歓声が上がり、同じ船に乗っているもの同士の連帯感が生まれた。船から見たプラハの街は、静かにその歴史を語りかけてきた。

私は、中川運河と堀川の水位を調整するために建造された松重閘門を眺めるのが好きだ。そこに、産業の発展のために力を尽くした名古屋の近代期の人々の姿を重ねることができるからだ。名古屋市内でありながら旅情を感じさせてくれる場所でもある。この閘門をいつか船で通ることができたらと思ったりもするが、外側から眺めている方がよりその当時のことを想像させてくれるのかもしれない。

佐藤久美
名古屋国際工科専門職大学工科学部 教授